Temo che combatterò la primavera in blu.

ほとんど昔の、嘘と本当の交じった日記

primavera blu

 

長い間、春の青に溺れていた。

 

 春の訪れを蔑したいように厳しかった明方の空気も何処へやら。新しい一日があんまり優しく始まるものだから、僕は布団の中で二月のそれとは違う名残惜しさを噛み締める。カーテンの隙間から柔らかい光が降っている。朝が来たんだ。少し心残りはあったけれど、微睡みを振り解くように伸びをする。むくり、と身体を起こす。窓硝子の先にはずっと遠く白んでいく空が見えた。すごく綺麗だった。春はあけぼの、なんて何時だかに習ったフレーズが頭を過ぎってちょっと面白い。あの頃、ちっとも考えてなかった。この風景は一千年前と何ら変わっちゃいない。

 

 とはいえ、なんだかんだ言っても朝の支度というものは億劫である。洗面台の前に立って、ようやく今朝の寝癖のひどさを知る。まあ、それでも体裁を整えるのに困る訳ではない。ひと月前は蛇口をひねってすぐの水には触れるのも躊躇われたけど、今日はそれほどでもない。肌に触れる空気は少し湿り気を帯びた気がするけれど、悪くはない。 適当な朝飯の献立を考えながら歯を磨く。

 

 先程調べた電車の時間に帳尻を合わせて玄関を出る。今日はお気に入りのコートを羽織らなかった。駅までの道のりには子供の頃よく遊んだ公園があるが、久しく足を踏み入れていない。最近では古い遊具が新しいものにすげ替えられていて、なんだか知らない場所のように感じる。でも、あのモクレンは変わらずに立っている。昔からあのオフホワイトの花弁が好きだった。今は遠くから眺めるだけだけど。また少し駅に近づいていく。桜並木の中を歩く。といっても、まだ花は咲いていない。真冬の頃、彼らは生きてるのかそれとも死んでるのかすら分からなかったけど、このしだれ桜の梢も雨が早く咲けと急かす度に確かに膨らんでいるんだろう。たぶん。そういえば高校の友人がみんなで花見をしたいなんて言ってたっけ。早く予定を立てないと時季外れになってしまうよ。

 

 そうこうしているうちに最寄駅に辿り着いた。定期があと数日で切れてしまうことに気が付いたけど、今日は乗れるからそれでいい。ホームに陰がおちていて少し肌寒かったから、電車が来るまで隅の陽だまりでアナウンスを待った。それでもやっぱり最近は暖かい日が続くようになってきていて、車窓の外を流れていく風景もすっかり春の様相を見せている。所々で梅なんかが立派に咲いていたりする。でも梅はそろそろ散り始める頃かもな。年中咲いててくれればいいのになんて考えてみるけど、そう上手くはいかないから良いんだってことも知ってる。やっぱり、帰り道は公園に寄ってみようか。あのモクレンを見に行こう。どうせなら花びらの真下まで行かなきゃな。

 

 春、季節に血が巡っていく。今日はいい日になりそうな気がする。