Temo che combatterò la primavera in blu.

ほとんど昔の、嘘と本当の交じった日記

田舎に移り住んだら深夜にコンビニは行けないか

 もう十二月も目前ですね。随分寒くなりました。心にすこし余裕のある夜には、裸足にサンダルを履いてコンビニに行きます。当然、足の指先はむちゃくちゃに寒いのですけど。パキンと割れてしまいそうな夜へ無謀に飛び出していくのは、何故だかとても気持ちが良いのです。そんな事をしたくなるのは、きっと今まで執着していたものすべてをかなぐり捨てて誰も僕を知らない場所へ行きたいと思う気持ちに似ているような気がします。

 ほら、僕はいつも田舎に住みたいと言っていたでしょう?今でもよくそう思っています。でもなんだかんだ言って僕は意外と東京のことも好きなんですよね。頭の中で想像する東京はいつも灰色。ビル群に切り取られた空、傲慢な広告にまみれて思考はぐちゃぐちゃ。渋谷の人ごみ、明らかに頭の悪そうな顔の奴らばかり。四方八方に流れる人の濁流で思うように歩けないことがストレス。阿呆みたいな服装の若者とすれ違うと僕にはどっと疲れが襲ってくるのです。でも彼らはこの街に馴染んでいるように見えました。僕は何年経ってもこの街に馴染めたと思ったことがありません。だけど最近宮下パークやPARCOあたりは楽しいなと思うこともありました。都会もなんだかんだ面白いです。意外と僕、休みの日はアクティブに外に出ることも好きなタイプですし。それに大好きな友だちや先輩後輩もいる。ここから離れたら、その人達には中々会えなくなるでしょう。それはさみしいなと思うのです。そして何より、君にはもう二度と会えないかもしれません。

 君に教えてもらった小説の舞台なんか、移住先のイメージとして凄くぴったりでした。小さな港を見下ろせる高台の古民家。自分たちの好みに少しずつリノベーションをしたいです。生活にはすこし不便でしょうけど、今は物流もインターネットも発展していますからなんとかなるでしょう。晴れた日には港ちかくの小さな砂浜に行きたいですね。おにぎりを作って持っていきます。ラップで巻いたから海苔がしっとりした、いつもより特段角のまるい鮭おにぎりです。まれに舞い上がった砂を食べてしまうかもね。港の汐風は目に沁みるでしょうか?海の近くがこわければまた別の場所を探そう。

 誰も僕を知らない場所に行きたいというのは、「いなくなってしまいたい」こととも似ているのかもね。正直に言って君がいなきゃ田舎暮らしなんて退屈でしょう。気恥ずかしくなるような小さな夢をたくさん見せ合ったね。理想と憧れを詰め込んだ田舎の古民家には君がいなきゃ意味がなかったのに、挽きたての珈琲豆の香りがするような暮らしをまだ夢に見てしまうのです。いなくなってしまいたいのに、君のいるこの街を離れることもさみしい。

 それでもいつかは自分自身の夢として、どこかへ静かなところへ移り住んでみたいとは思います。二十代も半ばになったしそろそろその仕度をはじめたい。僕らはもうどこへでも行けるのだから。いくつか心残りはあるけれど、それをどうするかはその時の僕に任せるっていうことでいいのかな。

 深夜の住宅街をサンダルで歩きながらそんな事を考えていたけど、今日は思ったより寒くて足先が完全に冷え切っていた。もはや冷たいというより痛い!これはいけないと角を曲がってコンビニが見えるやいなや、駆け足で店内へ飛び込んだ。暖房が効いていてほっとする。さて、缶珈琲の一本とデザートでも買いますかと店内を物色しているとある違和感に気付いた。コンビニの冷蔵庫の足元あたりからわずかに温風が出ている。ははあ、ここから排熱しているというわけか。知らなかった。冷え切った裸足の指先でなければ気づかなかった。