Temo che combatterò la primavera in blu.

ほとんど昔の、嘘と本当の交じった日記

港の倉庫に来い。14:30迄に。

 国民の祝日が運命に仕組まれたように一堂に会する素晴らしき連休、ゴールデン・ウィーク。あっ、という間にカレンダーは流れ、黄金色の日々は最終日を迎えた。僕は絵に書いたような絶望の面でベッドに沈みこんでいた。明日からはみどりの日でも、青の日でも赤の日でもなく、無印灰色の日々がはじまるのだ。まるでつまらないスゴロクのような。憂鬱に拍車をかけるように今日の天気は雨だった。部屋にジメリドヨンと充ちた湿気。マットレスに放り出された四肢にはきのこが生えている。ベッドの上、くだらないインターネットの明かりが僕の顔を鈍く照らし出す。何もかもおしまいだとでも言いたげな表情。

 連休最終日とは覚悟の時間である。サザエさん症候群というのがあるようだが、自慢じゃないけど僕は日曜の夕方どころか、起床時にはもう発症している。なんなら土曜日の夜にはもう緊張し始めている。明日への覚悟の時間になってしまえば、それはもう休みの日ではないのだ。もちろんそれは連休のオーラスとして、最も恥ずべき幕の引き方だということも分かっている。美しくない。祝日への冒涜。エンドロールに飛び交うヤジ。それでもこの身体はかかる重力に逆らえない。この雨では出かける気にもなれない。飲んで忘れてしまうか?いっそのこと泣いてみようか。ああ、友達に会えたらいいのにな────

 

 ポキポキ!

 

なんだ。湿っぽい部屋に乾いた音色が響いた。LINEだ。誰だ。明日の仕事の連絡か?やめてくれ、まじで。おそるおそる画面を覗く。

 

「14:30までに赤レンガ来れるか?」

 足立だ!

 

 メッセージの送り主は足立だった、僕の10年来の大親友である。こいつ…!!このタイミングで誘ってくれるなんて!彼の言うことには、赤レンガ倉庫にてフリューリングスフェストなる催しがあるらしい。ドイツの春の訪れを祝うお祭りのことだ。敷地に特大のテントを張り、その中でドイツビールやらソーセージ、さらには本国から招いた音楽隊によるライブを楽しむことができるって?そして何より、これまた僕の10年来の大親友、ひーも一緒だって!?彼らとは高一のクラスで出会ってから今に至るまでつるんでいる。人生の中で一番長いこと一緒に過ごした友達かもしれないくらい、大切な友達のふたりだ。僕はメッセージを読んだ瞬間に心を決めていた。

「電車調べるわ」 

「さすが」

簡単なやり取りをしながら浴室に飛び込む。強めのシャワーが気だるさを流す前から、僕の心は既に晴れていた。スグに準備をすれば14:30には間に合いそうだ。タオルでささっと手早く身体を拭く。今更どんな格好で会ってもいい人達だけど、気分がいいからお気に入りのアウターを選んでみた。髪も整えた。なんてったって、今日は最高の日だから。彼らのおかげで、終わりの日は燦然と輝き始めたのだ。

 

 約束の10分前には会場に着きそうだった。傘を前のめりでさして小走り。跳ねる飛沫で裾丈を濡らして、少し息を弾ませて。もう身なりのことは気にかけていなかった。ひーがウェルカム・ドリンクとしてビールを買いに行ってくれたらしいのだ。それは早く行かねば!もう赤レンガ倉庫は目の前。最後の信号が青に変わるやいなや、会場のテントに僕は飛び込んだ!

 

 驚くほど広い会場だ!前方に音楽ステージ、後方に飲食の屋台、そしてその間に相当数のテーブルが設置されていて、大勢のお客さん達が思うがままにイベントを楽しんでいた。まだライブは始まっていないようだけど、既にかなりの盛り上がりを見せている。足立とひーを探しながら歩いていると、突如、背中をどつかれた。

「よぅ!」

ひーだ。顔がほころぶ。どうやら彼らは早めに来ていて、席を確保してくれていたようだ。道案内されながら辛抱できずに会話を始める。

「よく来たね〜!」

「そりゃ来るよ!」

足立が待つ席に辿り着く。

「ウィ!」

「呼んでくれてありがとなぁ〜!」

三人でグーを合わせ合った。おや…机の上には、飲み終えられたプラコップがいくつか。あと中身がくり抜かれたパイナップルの残骸。……おい、もうだいぶ楽しんでんなこいつら!いいな!座る間もなく、用意してくれていたウェルカム・ドリンクことヴァイツェンで僕らは乾杯した。

 彼らは僕のためにポテトやソーセージも買い足してくれていた。これがまた美味くて酒が進む!あっという間に1杯目を飲み干してしまい、スグに2杯目を買いに行く。今度は僕からふたりにお返しのビールを送った!もう楽し過ぎる!そうこうしていると会場にアナウンスが流れた。今からドイツの音楽隊によるライブが始まるらしい。なるほど、足立とひーはこれに合わせた時間で僕を呼んでくれたのだ!席から立ち上がって、ステージに向かってビールを掲げた。楽団は知らない言語で客席を煽る。僕らはただ叫んだ。言葉は分からなくてもお酒と音楽があれば大丈夫だった。

 

 三人の話は尽きなかった。旅行に行った話。行きの新幹線、牛タン、しおり…面白いなあ。車が欲しい話。スバル製の車を買ったら、僕のことを乗せてくれるらしい。仕事の話。特大のボーナスが出るんだと自慢された。僕はうるせー!ぶん殴るぞ!と叫んでいたけど、心の底から嬉しかった。他の誰かなら本気でムカついてる所なのに。彼が頑張っていて、皆に認められているなら俺は本当に嬉しい。最近、酔った足立が泣いているのを時々見る。何なのかと訊ねるとなんか「嬉しい」らしい。こいつ最高。ひーは、今日も底抜けに明るいパワーをそこらじゅう撒いている。さっき生パインのかき氷を半分以上床に落としたらしい。だから2個目を買ってきていた。面白い。一緒に居ると元気になれる人ってこういう人だろうな…。大人になればなるほど、どんな事でも一緒に笑ってくれる人さえ居ればどんなに幸せかと思うようになった。足立は幸せ者だな。ひーは毎回息が出来なくなるくらい笑ってくれるからめちゃくちゃ嬉しいんだよな。最高。足立とひーは高校時代と変わらず、ケンケン罵りあいをしている。その直後にお前は最高だ!とかそっちこそなー!とか言い合ってるからおかしい。どこまでも飛んでいけ。足立とひーが楽しそうなのが、僕は本当に幸せだった───。

ビタン!!

突如。足立にマンキンで背中をぶっ叩かれた。オエェ!なんだこいつ!酔った時のこいつのパワーはおかしい。振り向くと、お前は最高!とのことらしい。やったぜ。

 ご機嫌な演奏は続いていた。僕らは時々立ち上がり、音楽に身体を任せながらまたプラコップを傾ける。一度気分がよくなって三人でがっちり肩を組んで揺れていた。すると、近くの席で飲んでいた若者グループが僕らに肩を回してきて、一緒に歌い始めた。次に外国人の兄ちゃんたちも参加してきて、皆で歌う!段々僕らは大所帯の真ん中になってしまったのだった。最高に楽しかった。陰鬱な気分で迎えたはずのゴールデン・ウィーク最終日は最高の思い出になった。彼らのおかげだ。

 友達と酒と飯、音楽で踊る。これもう人生のすべてだろ。もうここで終わってもいいと思った。あー駄目駄目、これは僕の悪い癖である。あんまり幸せな出来事が起きると、もう死んでもいいとか悪い言葉でくだらない例えをしてしまったりする。もうさ、そういうことじゃないんだよな。

 

 

 僕はこの人達と居られて嬉しい!本当に楽しかったなー!これからもずっと仲良しでいたい!こいつらの幸せが僕の幸せだ!僕がぜってえ守るわ!

…馬鹿なヤンキー中学生みたいになってしまった。でも、それくらい真っ直ぐに思えるってヤバない?本当に心から思ってしまう。それって、最高に幸せじゃんかよー!おまえら、いいやつ。