Temo che combatterò la primavera in blu.

ほとんど昔の、嘘と本当の交じった日記

Linha d'água

 母はこの街のオススメスポットをたくさん知っている。「海の近く」という湘南のフリー・マガジンを読んでいて、茅ヶ崎のあたりをマイカーでドライブしたり、お友達と一緒にランチをとったりしたのだという話をよく楽しそうに話している。今日はそんな母に教えてもらった海の近くにあるハンバーガー・ショップを目指して車を走らせた。朝からとても天気がいいから海岸沿いを走るのも楽しみだった。まもなく件の店に到着した。小洒落た雰囲気。時刻は十四時を回っており、僕の腹はハンバーガーを詰め込むにはまさにいい塩梅になっていた。すぐに席に通された。ウッドデッキのテラス席。潮の交じった風が心地いい。さあいつでもこい。ほどよい具合に火を通した挽肉を配膳するのだ!僕はその時を待った。

 

 その時は突然訪れた。ウェイターが白い湯気と匂いとを携えてプレートを運んでくるのが見えた。

 

 申し訳ないとは思っていたが、彼女が丁寧にしてくれた料理の説明は脳の中をすり抜けていた。噂に違わぬボリューミーな肉!肉!肉!思わず涎が垂れそうになるのを慌てて抑える。ハンバーグの起源は十三世紀、タタール人のヨーロッパ侵略まで遡る。彼らは乗り潰した馬を殺し食料を賄っていた。しかし酷使した馬は筋肉が付いてしまい硬く不味い。そんな馬肉を食べやすくする工夫として、馬の鞍の下に肉を入れておくことで肉を潰して柔らかくしたという。やがてヨーロッパで労働者などに安価な屑肉を口当たり良い料理として提供するための手段として普及したらしい。だが!僕の目の前に運ばれてきたこの肉は、まさにハンバーグになる為に生まれてきた牛肉なのだ!万歳!万歳!………

 

 会計を終えて店を出る僕は、満悦の表情であった。再びドライブにもどる。辻堂鵠沼あたりは都会ではないが静かで小さくも洒落た店が建ち並ぶ。主婦が幸せに暮らせる街ランキングで一位になったなんて噂も聞く。少し狭い路地を行くとこぢんまりとしたアイスクリーム屋さんを見つけた。調べると、どうやらこの辺りでは人気のスポットらしい。せっかくだから寄ってみようと思い、併設されていた小さな駐車場に車を停めた。

 

 子供の頃、母がアイスクリームを買ってくれた。母はカップを選んだ。その理由が僕にはわからなかった。僕たち子供は当然にコーンを選ぶものだった。理由を訊ねる。「うーん、なんでだろ?これでいいと思う歳になったのかな」余計理解できなかった。コーンなら食べれる部分が多いし、何よりおいしいじゃんか。アイスとコーンのマリアージュ!僕はあの日と同じくコーンを選んだ。少し特別なワッフル・コーンだ。僕はまだ母のような大人にはなれていないのかもしれない。