Temo che combatterò la primavera in blu.

ほとんど昔の、嘘と本当の交じった日記

出さずに食べた手紙、飲み込んだ言葉に栄養はあるか

 十月も半ばを過ぎて、暦の上だけに在った秋が気づけば本物になった。肌寒い日が続いている。先月号のニュートンにも秋夜の寂寞の訳は載ってなかった。たぶん空気の組成にさみしさの分子が交じるんだろう。この頃は曇りばかりで星を見ていないな。いや、久しく上を向いて歩こうとしなかっただけかもしれない。見上げたはるか上空で風に運ばれていく雲は思ったよりも速くて、そして僕とは一切の関係がない。もしかして、あそこには嵐のような風が吹いているのだろうか?例えるなら夏の温度や湿度みたいに、すべては僕の知らぬ間に連れ去られてしまう。ぜいぜいの暮らしを成り立たせる事に必死で、流れゆく時間の早さだけじゃない、あふれようとしていた思いの丈にすら霞がかかってしまいそうになる。自分でもどうしたいのか分からないまま転がり続ける日々だ。中々会えなくなった人の暮らしを想像する。もし貴方が、同じように徒然や寂寞のすきまで僕の面影を見ていてくれたら。そんなことないか、と少し笑ってしまった自分へかすかに苛立ちを覚えた。もう一度、同じそよ風の中で話がしたい。

 蒲田駅有隣堂のとなりにある文房具屋で便箋を買った。手紙を書こうと決めていた。僕は時折誰かに宛てて手紙を書く。とはいえ郵送したことはない。届ける方法は手渡しだけ。僕にとって手紙は会えない誰かに送るものではなかった。僕は頭の回転が早くなくて、準備をせずに会話にのぞむと生来の口べたによってうまく話せないことがしばしばある。だからどうしても伝えたい事があるときは手紙を書くのだ。ただ今回はいつもと違う事が一つあった。僕ははじめて会えない人に手紙を書くつもりだった。そして結論から言うと、僕はこの手紙を書き終えることが出来なかった。

 文章は書けた。自分でも恐ろしく思うが5000文字近く。膨大で美しくもない内容だけど本音ではあった。ただ僕の文章の塊はたった一度でも会話を交わすことのかがやきに敵わないと思った。そしてきっと、僕が想いを伝えたかった人はこの手紙を真剣に読んでくれると思うのだ。そんな相手のことを思うと気軽に送ることは出来なかった。この手紙を送ることはズルだと思った。そんな手紙だった。いつか会えて真っ直ぐな心で伝えられるときが来るのなら…いいんだけどな。あーあ、また何かのタイミングを逃してしまった気がするな。書きかけの手紙は捨てる事も出来ずに机の奥底にしまいこんだままだ。

 「いつまでも私にとらわれていてほしい。」数年ぶりの再会の別れ際にそう言い放てる君には腹が立ったよ。その癖「今でも時々君の夢を見る」と言えるのだから、呪いのかけ方が上手だよほんと。その呪いのことを想うと、心の底がくすぐったくなる。溜息。鏡を見てはいないけど、きっと緩んでしまう僕の頬が憎くてたまらない。

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意味を失くしたとしても忘れられない日付がある。

カレンダーにその日付を見つけると嬉しいような悲しいような。いつまでも染み付いてしまっている。

未来の日付は約束のためにある。過去の日付は思い出すためにしかない。